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女の子に求められる「シンデレラ、かつスーパーガール」

トイストーリー4において、羊飼いのボー・ピープが戦う女の子にさせられたことが賛否両論ですね。

 

 

 

遡ること9年前、私が『トイストーリー3』公開時にこの作品に戦うヒロインとして登場するバービーについて書いた批評があったので、これを期に公開しようと思います。

ディズニーの「バービーと現代の女性に求められる『完璧な女の子』像」への危機感を書いています。

 

バービーガール、パーフェクトガール

 

トイ・ストーリー2と3を通してみると、“バービー”のキャラクターの豹変っぷりに驚く。

監督のコメンタリー(※)によると、そもそもトイ・ストーリーは当初誰もヒットを予想しなかった作品で、版権キャラクターの出演許可を取るのにかなり難航したらしい。

トイ・ストーリー1の段階でバービー出演の権利が取れず(ちなみにこのとき代わりに作られたキャラクターがボー・ピープだ)、映画の主要キャラたちをおもちゃ屋に置かせてもらうのも難色を示されていたらしい。しかしこの“トイ・ストーリー”が思わぬ大ヒット作となり、次々とコラボ許可も下りた。

バービー出演の許可が下りたトイ・ストーリー2では、玩具屋さんを舞台にたくさんのバービーが出てくるが、そこに描かれる彼女たちは没個性で、ポールダンスやビーチバレーをして楽しむ、“黄色い声”を上げる女の子たちだ。唯一ポテトヘッドたちと行動を共にするバービーも、職業はツアーガイドで女性の職業だった。

トイ・ストーリー3でのバービーの話にいく前に、「バービー」そのものについての話に少し触れておこう。

Aquaというデンマークのポップスグループがある。2000年にヒットした“Babie girl”という曲は、バービー人形の販売元であるマテル社を激怒させたという逸話を持つ。その歌詞はこうだ。

 

私はバービーガール バービーの世界に住んでるの

私の命はプラスチック ファンタスティックでしょ

私の髪を梳かして 私の服を脱がせて

想像してみて 命をあなたが創造するの(妊娠させてもいいよ)

AQUA -『Barbie Girl』1997年、ユニバーサルミュージック (筆者訳)

 

ここからわかるように、バービーは「可愛くて頭カラッポな女の子」の象徴となっている(最近だと、2013年5月にドイツでフェミニスト団体が『バービーハウス』の前で抗議した件も話題になったのを覚えている人も多いだろう)。

1959年に登場して以来爆発的なヒット商品となったバービー人形は、アメリカの女の子たちの自意識と切っても切れない関係にあり続け、それゆえにその歴史は常にフェミニストと共にあった。

“Babie girl”の歌詞中で最も問題なのは『Imagination, life is your creation』の部分であろう。妊娠を暗喩するこの表現を、しかし筆者は違った意味で解釈している。

私の考えではこうだ。「想像して、私にそれを投影して」。

私の人生はあなたの想像通りというその言葉通り、バービー人形は女の子に遊ばれる人形として、想像して、投影される宿命を持った存在だからだ。それは女の子が大人になったとき、恋愛において「理想の相手を投影される」こととなって反転される。“Babie girl”はそのほぼ躁状態的な快感とその恐ろしさを歌った曲のように思える。

『人形への関心の中にはよく言われる母性本能などよりずっと多量に、女のナルシズムとサディズムが投影されているように思われる』(※)と言ったのは吉原幸子だが、1959年にバービーが発売される前、女の子のおもちゃといえば“将来お母さんになるための練習用”としての赤ちゃん人形しか与えられていなかった(ちなみに少子化対策にこの赤ちゃん人形をキャンペーンとして導入したのが、かの“テディ・ベア”の名称の元にもなったセオドア・ルーズベルト大統領である)。

今では想像しにくいが、バービー人形が登場したとき、お買い物♥男の子♥に夢中になるこのバービーは、むしろフェミニストによって支持された。彼女たちの母親世代は1940年代に主婦として家事に明け暮れた世代。映画で言うと、めぐりあう時間たち(2003,米)のローラ、ビッグアイス(2014,米)のマーガレットの時代である。家庭に縛り付けられ、仕事は持てず、ビッグ・アイズのマーガレットは自分の名前で絵が出せず、セックスがどうしても苦痛なローラは自殺未遂。この女性たちを未来の自分の姿として目に映してきた少女たちからすれば、なるほど恋愛と消費を自由に楽しむバービーはフェミニスト的だったのも頷ける。

さて、トイ・ストーリー2から10年の時を経て、3でのバービーはどんなキャラクターになったのか。

敵であるケンを出し抜くため、彼をおだて、泣きマネをし、変装し、ウッディだちを勝利に導くバービーは、まるで峰不二子だ。さらに、保育園を取り仕切る邪悪な支配者・ロッツォに対してバービーは、絶体絶命のピンチにも関わらずキッと睨んでこう言うのだ。「権力は脅しではなく、統治される者の同意から生まれるべきだわ!」(ちなみにこのセリフを提案したのは脚本家のマイケル・アーント。あの名作『リトル・ミス・サンシャイン』の脚本家である)。

バービーはトイ・ストーリー3にこのように描かれたことにより、今後このイメージを固定していくだろう。大げさに聞こえた人は、トイ・ストーリーシリーズにおいてピクサーがCG技術と魅力的なアニメーションによってどれだけおもちゃに命を吹き込んだかを考えていただきたい。例えば、ポテトヘッド夫妻。彼らは映画オリジナルキャラクターではなく市場にもともといたキャラクターであるが、彼らが店頭に並んでいる際、ミスターポテトヘッドは皮肉屋のオンナ好きな中年男で、ミセス・ポテトヘッドはおしゃべりで世話好きな中年女性というイメージ以外、もはや想像できるだろうか。スリンキーに至っても同様である。

トイ・ストーリーという映画によって、バービー人形はややこしい過去のノータリン女のイメージを脱ぎ捨て、新しいイメージに乗ることができた。賢くて勇敢でしかも可愛い、あまりにもパーフェクトなイメージを。そのイメージは、偶然か必然か、まるで新世代の女の子の理想を表しているかのようである。そう、現代の女の子の憧れは、「明るくて可愛くてバカ」でこそなくなったが、「賢くて勇敢ならブスでもいい」にはならなかった。

2012年、ペギー・オレンスタインは著書『プリンセス願望は危険がいっぱい』の中でこう指摘している。

「今や女の子たちは、すべてを持つだけでなく、すべてであらねばならないと感じている。シンデレラかつスーパーガールというわけだ」。

1※トイ・ストーリー3DVD音声解説/ リー・アンクリッチ(監督)、ダーラ・アンダーソン(製作)

2※吉原幸子『人形嫌い』思想社、1982年

3※オレンスタイン,P.著/日向 やよい訳『プリンセス願望には危険がいっぱい』2012年10月26日

 

ーー転載ここまでーー

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