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増田セバスチャンの「あっちとこっち展」に行ってきました~「怖カワイイ」アーティストが描く死の世界~

2016年1月23日(土)~1月31日(日)にTOBICHI②さんで開催されていた、

"増田セバスチャンの「あっちとこっち」展-Knockin' on Heaven's Door-"

に行ってきました。もう終わってしまったんですね…早く書けばよかった…

 

不勉強ながら増田セバスチャンというアーティストを全く知らず、長野から来た友人から誘われて行ってきました。

友人から聞いたところによると、きゃりーぱみゅぱみゅのPVの美術担当もしている人なんだとか。あの世界観はこの人によって作られているのか…すごい人なんですね。

残念ながら終わってしまった企画こちら↓

www.1101.com

 

 

以下感想です。

 

表参道のA4出口からTOBICHIまでテクテクと歩くのですが、この通りってプラダがあるわ、ミュウミュウがあるわ、ディオールがあるわ、本当にブランド街なんですね……

Gパンにへそ出しなどで来てしまった私は萎縮して歩きました。あとこの日寒かった。極寒て言われてたのに。なんでへそ出しで来たのか。

反省①:服は着る

(※書き終わってみたところ、②はありませんでした)

 

 

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そんなブランド街は一本通りを曲がるだけで突然古風な住宅街に変化します。

TOBICHIはそんなブランド街と住宅街の中間にありました。見た目のこの「中間」感もすごい!

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先ほどのハイブランドの並びにビビリまくっていたのですが、本展示は有難いことに無料とのこと。

一軒家を改装した感じの作りなのですが、なんと暗幕で仕切られており、中が全く見られません。パイプ椅子が並べられていて、お客さんたちが歯医者さんのように座って待っていました。

この時点でかなりびっくり。

 

黒い暗幕で仕切られた中では、何が起こっているのか全く分かりませんが映画「サウンドオブミュージック」のメインテーマのなんだかカワイイ感じのバージョンが流れてきます。怖い!

 

壁の注意書きには

・お一人ずつお入りください

・時間制限は3分です

・靴を脱いでお入りください

・ブランコは重量制限100キロです

 

……もちろん「ブランコ」を二度見。

先に入っていった友人の背中に「無事で戻って来いよ!」と心の中で言う。

 

なんだか3分経って係のお姉さんに呼ばれる。

無料で来ているのが申し訳なくなるぐらいお姉さんの対応が親切です。とりあえず友人は食われなかったらしい。

 

で、中に入ったらこれ

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「墓なんですね?!」とデカい声を出してしまったら、「そうです。だから『あっちとこっち展』なんです」と答えてくれたお姉さん。なぜかちょっと嬉しそう。

で、件のブランコ。

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揺れる揺れる。

白いわ木製だわ見た目可愛く見えるのに、座った瞬間ものすごく、ぐわっと揺れます。

S字フックだから?!

可愛いものに溢れた部屋の中で豪快に揺られて墓を見つめる私…マジ死の世界。

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付近はこんな感じ。

 

椅子に揺られながら、私は「あんまり来慣れてない親戚の家に来てる」感じがしました。

 

決して文句を言っているわけではないのですが、この感じは私の考える「死の世界」とはだいぶ違うので、

これは増田セバスチャンさんの考える死の世界で、私の考える死の世界にいるわけではない。

「誰かの考えた死の世界を、体験させられている」、その居心地の悪さ。それがつまり「本当の(でも今思うと本当のってなんだ?)死の世界を体験しているわけではない」という安心感にも繋がります。

 

そんな中で、最も異物感があったのは片隅に溶け込んでいたこれ

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脳漿をぶちまけている熊さん。

 

これがなければ「誰かの考える死の世界を体験してきたわ~」で済んだと思うのですが、

この熊さんのために痛烈に印象付けられました。

 

全体的にこの部屋は「増田セバスチャンさんの考える死の世界なのかな~」と思っていたのですが、

その中で、この熊さんだけが唯一「具体的な死者のイメージ」なのですね。

そうなるとこの部屋に表現されたものの意味がまるごと変わってくると思います。

この部屋は「増田セバスチャンさんの」あるいは「私の」あるいは「みんなの」「死の世界」ではなく、

「この熊さんの」死の世界、としてしか考えられません。

 

それにしては……

オモチャのピストルに頭を打ちぬかれ、毛玉の脳ミソを散らして、口から血を流している(あるいは、舌を伸ばしている?)熊さんは、

実際の「死」を前にするとずいぶん浮いている印象を受けました。

なにしろ目の前には本物の墓があるのです。

全然会ったことはないけれど、そこには、この近くに生きてこの近くで亡くなった方が実際に眠っており、きっと何年回に一度は家族の方がお墓参りに来ているはずなのです。

そう考えると、突然この作品が若干「本物の死者に対して、不真面目」な印象を受けました。

 

 

思い出したのは、去年訪れたデザインフェスタ

言わずと知れた、ビッグサイトで行われるプロアマ問わず参加できるアートとデザインの祭典ですが、

そこでは若い参加者さんを中心に、カラフルだけど死をイメージさせるような、「怖カワイイ」作品がものすごーく多く出品されていました。

この手の作品は、きゃりーぱみゅぱみゅが出てくる前はもっと少なかった気がします。

きっと増田セバスチャンさんは一大センセーションを巻き起こしたのですね。

 

しかし、私は増田セバスチャンさんや、「怖カワイイ」作品を作るアーティストさんたちが、死を軽視しているとか不謹慎だとか思っているわけではないのです。

なぜなら、このアーティストさんたちが作品の中で描いている「死」は、抽象的な、概念としての「死」であると思うからです。

それは全然、不謹慎でも不真面目でもありません。

しかしそういった作品たちが、今回の『あっちとこっち展』のように、実際の死(=墓地)を目の前に作られ、出し物にされた機会はそれまでなかったと思います。

 

「『怖カワイイ』は、ホンモノの死と実際に並べてみると、けっこう不謹慎だね」

 

増田セバスチャンさんは、そう言うために本作を作られたのでしょうか?

とにかく、今回の展示で、私はそのことを初めて思い至りました。