ヴァージン・スーサイズ ~精液をかけることによって失った少年の中の少女性~
私たち20代女性の永遠の謎、ヴァージン・スーサイズ。
少年たちの憧れの美しき五人姉妹は、映画のラストで何の前触れもなく突然自殺。
しかも理由については一切語られない。
この謎多き映画については解説サイトもたくさんあるのですが、何しろ映画側から与えられた情報が皆無なので、「これだ!」という明瞭な答えを言い当てたものはないような気がします。
そのことについて一生懸命考えてみたのですが、
自分なりに達した結論は「これは少女たちの物語ではなく少年たちの物語だからではないか?」ということでした。
これは始めから終わりまで少年たちの成長物語であり、少年たちに全くわからないことは我々にも伝えようがないのではないのでしょうか。
原作の顛末は、全て少年たちの視点で語られています。
①少年はなぜ少女たちを「観察」したか
これは原作を読んでかなり印象的だったのですが、少年たちは思春期ということもあって意志が頼りなげで、自己が確立せず揺れ動いています。
唯一一貫しているのは「大人の男になりたい」という強い強いエネルギーです。(思春期っぽい!)
少年たちにとって、「憧れの五人姉妹の生活を覗くこと」は大人の男の持つ性的欲求の模倣であったことはほぼ間違いないと思います。
②ただただエロい人形であったはずの少女たちとの不思議な同化
しかし、ここがこの物語の最大のミソであると思うのですが、
自己の確立していない少年たちは、 大人の男の模倣として少女を性的対象として観察しながら、
少女たちを観察し、日記を読み、生理用品を物色するうちに少女と同化してしまうのです。
「僕らはセシリアの日記から、彼女たちの生活を垣間見た。女の子であることの窮屈さ。彼女たちは大人で、僕らは騒々しいだけの子供だった」(原作より抜粋)
このセリフには少年たちが自分が自己が確立されていないことを認めつつ(→「彼女たちは大人で、僕らはただ騒々しいだけの子供だった」)、
同化していく心理がよく表れていると思います。
また、映画には、ラックスのバスルームに入った少年が、口紅を凝視し、フタを開け匂いをかぐ(ほとんど付けようとする)シーンが挿入されています。
これは少年の心が懐疑的ながら「オンナ」に同化していくことを表すコッポラさんの非常に上手なシーンだと思うのですが、いかがでしょうか。
③精液をかけることによって失った少女性
映画はラックスが屋根の上でセックスをしまくるところから不穏な予感がするようになっていきます。
母親によって家から出ることの一切を禁じられ、半ば閉じ込められた少女たち。
ラックスは毎日違う男と屋根の上でセックスをするようになります。
その様子を、少年たちは毎晩望遠鏡で覗いています。
少年の、少女たちとの不思議な同一化は収束に向かい、もう完全に本来の役割(=エロとしての消費対象)になっていくシーン。
原作には少年のうちの一人がセシリアの日記に精液をかけるシーンもあります。
少女たちとの同一化に終止符を打つ「トドメ」として、少女たちの自殺があります。
少女たちが死ぬことにより、少年は完全に同一化から絶たれます。
少女たちが死ぬ直前、少年がしていた妄想は「このまま親を忘れて少女たちを連れて旅に出る」という、少女たちを「エロとして消費したい」から「ヒロインを救済したい」願望に変化したともとれる、完全に女性性を失った「男」としての願望でした。
少年たちは大人になり、同一化そのものと決別します。
→ラストのセリフ
「はじめははっきり覚えていたのに、だんだん思いだせなくなった。」
あえて少女たちを主軸に読み取ろうとするならば、
「同化はウェルカムだが、大人の男としての願望なんて願い下げだ」といったところではないでしょうか。
このへんが、すべての女性に生きるのと引き換えに押し付けられた窮屈な条件、
子供→少女→若い娘→おばさん→老女
という、まるで別の生き物に変化するかのような扱いに適応しなくてはならないルールになんとかして反発したい女性の心情として、
フェミニズム的に感じられるシンパシーが、
この映画の最大の魅力のひとつになっているのではないかと考えられます。
また、全く別の話ですが、そもそも自殺を人間の「ひとつの行動」と捉えるならば、人がなにかをすることに秩序や理由はあるのか? というメッセージを込めた映画とする見方も面白いと思います。
たとえば、こういう経験はみんなあると思うのですが、
私はある日昼食にお好み焼きを食べた日に、
「なぜお好み焼きを食べたのか?安かったから?材料があったから?簡単だったから?食べたかったから?それとも無意識のうちにCMに影響されて?」
とついにわからなくなって思考停止したことがあります。
人間の行動のほとんどには明確な意味があるわけではないのに、
ことが「自殺」となるとみんな「何か原因はないか?」と探ってしまう、でも実際のところ本人だってわからないんじゃないでしょうか、というメッセージともとれて、興味深いです。
以上です。
ブログを初めて以来、これまで自分なりに未熟ながら何本かの映画を考察してきましたが、
今回はいつにもましてちょっと自信がないです。難しい……