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華麗なるギャツビー―ロマンスの狂気の犠牲となったギャツビー―

 

 

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バズ・ラーマン版の『華麗なるギャツビー』が公開されてから、約一年が経ったのですね。明日参加させていただく読書会でフィッツ・ジェラルドの『グレート・ギャッツビー』を読むそうなので、整理がてら感想を書こうと思います。

 

 

●犠牲者の物語

華麗なるギャツビー』の書き出しはこうである。

 

「誰かのことを批判したくなったときには、こう考えるようにするんだよ」と父は言った。
「世間のすべての人が、お前のように恵まれた条件をあたえられてわけではないのだと」

 

 これは、人が間違いを犯したとき、一度その人の立場に立ってものを考えてみよう、という意味である。『華麗なるギャツビー』とは、罪を犯した者、間違った者の事情を汲み取る物語である。

 『華麗なるギャツビー』には、二人の犠牲者がいる。一人はギャツビー、もう一人はマートルである。二人とも、貧乏の出身で1920年代に夢を見た者たちである。ギャツビーはロマンス、マートルはお金である。

 

●1920年代のの狂気

 1920年代のアメリカには2つの夢が満ちていた。

 その1つがロマンスである。身分の差にとらわれず、お互いの気持ちさえあれば自由に恋愛、結婚ができるというものである。このロマンスとは、狂気を孕んでいる。つまり、非合理の合理化である。身分の違いも、その後の生活で苦しい思いをすることになる可能性も、みんな「体から溢れる熱に逆らえない」「これは運命」ということにしてしまえば、簡単に合理化出来る。これは周囲に反対され、貧乏であることから本人からも一度は却下されながら、再びゼルダと婚約したフィッツ・ジェラルドも、例外なく感じていたことなのだろう。

 もう一つの夢はアメリカンドリーム、つまりお金である。お金さえあれば、出生にかかわらず上流階級の仲間入りができるという夢である。貧乏な自動車整備工の妻であったマートルは、トムの愛人になることで上流階級に仲間入りできる夢を見る。

 マートルはアメリカンドリームの犠牲となり、ギャツビーはロマンスの犠牲となり、死んだ。

 

●マトモな世界とロマンスの世界

 デイジーの最も印象的な言葉の一つに、以下がある。

「知ってる? お金持ちはね、貧乏人と結婚しないの」

 かつて、デイジーもギャツビー同じ、ロマンスの世界の住人であった。しかしデイジーはトムと結婚することで、お金持ちのマトモな世界で生きることを選んだのである。

 「お金持ちのマトモな世界」の女性はどのような女性だろうか。それを表すキャラクターが、ジョーダンである。彼女はプライドの高い、堂々とした女性であり、一見すると「男に媚びない、新し女性」風である。

 

Jordan Baker instinctively avoided clever, shrewd men, and now I saw that this was because she felt safer on a plane where any divergence from a code would be thought impossible. She was incurably dishonest. She wasnt able to endure being at a disadvantage and, given this unwillingness, I suppose she had begun dealing in subterfuges when she was very young in order to keep that cool, insolent smile turned to the world and yet satisfy the demands of her hard, jaunty body.

 

しかし彼女はスポーツ選手でありながら不正行為が新聞に載りかけたこともありるし、不利な状況では平気で嘘をつく「救いがたい不誠実」な女性である。また、

 

Youre a rotten driver, I protested. Either you ought to be more careful, or you oughtnt to drive at all. I am careful. No, youre not. Well, other people are, she said lightly. Whats that got to do with it? Theyll keep out of my way, she insisted. It takes two to make an accident. Suppose you met somebody just as careless as yourself. I hope I never will, she answered. I hate careless people. Thats why I like you.

 

ドライブ中の上記のやりとりからわかるように、ジョーダンは「自分の足りないところは男性であるニックに補ってもらえば良い」という、「媚びない女性」とは180度逆の考え方である。

 このようにジョーダンは一見男性に媚びない女性風でありながら、実は一般的な女性の価値観を内面化した女性である。対してデイジーは、従順な少女のような女性風でありながら、トムと結婚することでなんとかマトモな世界で生きている。二人のキャラクターは、当時の一般的な女性と新しい女性を表している。

 

●時代が見せた幻想

 当時の人々が夢見たロマンスも、アメリカンドリームも、結局「時代が見せた幻想」であったという結論で、物語は終わる。生き残ったのは、一度はロマンスの世界に生きながら、最終的にはマトモな世界に戻ったデイジーである。

 マートルやギャツビーが夢見た「お金持ちの世界」とは、平気でウソをつき、スポーツで不正を行い、生まれつきの金持ち以外が足を踏み入れることを汚い手を使って阻止してしまう世界であった。

 この物語は、自由な時代の空気に夢を見た二人の人物が、結局変わっていなかった世界の犠牲となり、死ぬ物語である。